異なる時間への思いやり

“異なる時間への思いやりを持とう”
Pay attention to different forms of time

これは共著で出した本「腕のいいデザイナーが必ずやっている仕事のルール125/エクスナレッジ社」に私が書いた一文です。

自分のスキルや考えるサービスが、もっと多くの建築家やデザイナーに役立つはずだという信念で独立し会社を立ちあげたのが8年前。何が一番変わったかと言えば、それは「時間の使い方」ではないかと思います。自分でスケジュールをコントロールし、好きな仕事に納得がいくまで取り組むことができる、またそういった時間の使い方をできる喜びは、何ものにも代えがたいと感じます。
私にとって建築の魅力もまた時間です。建築物ができるまでの長い時間をはじめ、素材一つひとつが通ってきた道のり、歴史を見守るかのような包容力、、、目に映るものでは語りきれない刻々と刻まれてきた時の流れにこそ価値を感じます。

さて、そのように時間に想いを馳せることもそうですが、自分の時間とは違う様々な時間の流れがあることを知っておくことは、建築家の対メディア、対海外コミュニケーションにおいても重要な鍵となりえます。時差はもちろんのこと、異なる時間の価値観を尊重したり、異なる時間帯系のなかで動く仕事や相手への配慮することなど、全てが円滑でスムーズな関係を維持したり、無駄なトラブルを回避することに繫がります。

例えば海外から届く依頼メールの中には、URGENTと件名に入ったものが少なくありません。更にまだ揃っていないデータを「明日までにください」などとメッセージが入っていれば、所内中が慌てふためくこともあるでしょう。あまりの突然の依頼に「なんて失礼な!」とスルーしてしまう人もいるかもしれません。しかしそのような時も、一度落ち着いて、先ずはその緊急性はどの程度のものなのかを知ることから始めてみることをお勧めします。相手が現在どのような時間の中で動いているのか見極めるのです。

私はそれを「締切に隠された本当の締切を知る作業」と呼んでいます。勿論本当に締切ぎりぎりという場合もありますが、実際は余裕があったり、単に注目してもらうための秘策であったりと、あまりにも国や地域により締切(急ぎ)が意味するところが違うからです。実際その確認作業は、我々が海外コミュニケーション代行を担う上で、多忙な建築家やデザイナーを無駄に急がせたり、折角のチャンスを逃してしまうことがないようにするために欠かすことができない重要なステップでもあります。

コミュニケーションにおいて、すべてに当てはまる方程式があるわけではありませんが、異なる時間への思いやりのなさから起きてしまうミスコミュニケーションを、始めから最小限に止める努力は怠らないでいたいものです。様々な条件を擦り合わせ、スケジュールを共有し、一緒に大きな一つの目的に向かっている時ほど楽しい時間はないと思うのです。