コロナ禍と海外メディア

海外の人たちと仕事をする私たちにとって、世界情勢は切り離せないファクターだ。特に建築デザイン系メディア(以降、海外メディア)の動きはとても重要である。コロナ禍という危機は、海外メディアにどのように作用しただろうか。3年目が終わろうというこのタイミングで一度振り返ってみたいと思う。

まず、最初の1年くらいはなにも変化がなかった。だがしばらくすると、少しずつだが変化を感じるようになった。例えば「雑誌の発行部数を今年急きょ減らすことになったので掲載は数ヶ月先になります」と申し訳なさそうに伝えてくるメディアが出てきたり、人員削減しているのか更新頻度が減ったWebメディアも見受けられ、皆何かしら工夫をして生き残ろうとしていることが伝わってきた。

では、そんな海外メディアと仕事をする私たちはどうだったかというと、彼らとの関係性においてもまた仕事をする上でも幸いマイナスなことは何も起きなかった。むしろ、プラスに感じられらたことの方が多かったと言える。それは、コミュニケーションがこれまで以上に濃密なものになったからである。コロナが特に猛威を奮っている頃などは、お互いの家族や友達を気遣い「元気にしているか」などメールのなかで声がけをするような習慣が定着したのである。本題そっちのけで「今はこんな状況だ」と生活の様子を伝え合ったり、政府のコロナ対策について意見交換しあったりもした。そのように、各国の編集者が一人の人間として置かれたさまざまな状況を知ることが出来たことは、永遠に遮断されたかと思えた国境を越えるかのように軽やかに伝わり心底励みになった。そしてなにか今までになかった連帯感のようなものが、そこかしこに生まれていくのを感じた。

そして何よりも驚いたのは、海外メディア全体の動きとして、彼らが発信するものに、静かだが確実に「本当に良いものを発信しよう」という気概を感じられるようになったことだ。これはとても大きな変化だ。それは、単純にこれまで編集者たちが遠方へ渡航し取材を行っていた分の時間をステイホームによって使えるようになり、コンテンツ自体に十分な時間をかけることが出来たという物理的な側面もあるが、それだけではない。コロナ禍が、情報発信する側の者たちに与えた心理的な影響が大きいだろう。

これまでは、ある部分ではビジュアル的にもインパクトがあり目立つ建築やデザインが取りあげられたり、速報性や量産性に重きが置かれ「どのような基準で掲載を決めているのだろうか」と疑問視せざるを得ないような傾向があった。しかし今はそのような状況が少しずつだが改善され洗練されつつある。分かりやすいところで言うと、私たちのクライアント(建築家やデザイナー)に対しインタビューを希望する海外メディアが圧倒的に増えたのだ。それは「深く掘り下げたい」「もっと知りたい」という編集者の熱量に比例していると考えられる。

全体としてコロナ禍で建築デザイン系メディアで多く扱われていたのは、サステイナブルなデザインやそれに伴う新たな技術、そしてポストコロナのオフィス環境や住環境に関するトピックであった。今後はさらに、環境と社会を良くする建築デザインが求められるだろう。

そして、直接海外メディアから「このようなプロジェクトを探しているが紹介してくれないか」と相談を受けることもかなり増えた。ただでさえ、海外からは日本の建築デザイン界で起きていることが分かりづらいと言われている。コロナ禍のようなリアルな情報の伝達が難しい状況下においても、日頃から日本の最新のプロジェクトを取材し(把握し)、海外に向けて風通しよく情報発信ができる私たちの存在意義は、今後ますます高まってくるのではないかと感じている。

海外メディア向けPRの専門家として活動し16年という月日が経った。総メディア掲載数約6000、PR担当プロジェクト数約500、国際デザインアワードエントリー代行数約80、取材プロジェクト約1000、という数に裏打ちされた実績と経験は、他にはない私たちネオプラスシックステンの財産だ。これからも、海外メディアと日本の建築デザイン業界の架け橋としていつも頼られる存在であり続けたいと思う。